

患者から「医療ミスだ」と言われました。歯科医院は最初に何をすればよいですか?
結論
まず、患者さんの訴え(何が、いつから、どうなっているか)を聞き取り、必要な診察・処置を優先します。そのうえで、診療録やレントゲンなどの記録をそのまま保全し、加入している賠償責任保険の窓口に連絡します。 その場で「こちらのミスです」と責任を認めたり、賠償額を約束したりすることは避けてください。ミスがあったかどうかは、記録を確かめてから判断します。
根拠
- 医院の責任が生じる場合:診療の結果が悪かったというだけでは、医院の責任は生じません。責任が問われるのは、当時の歯科医療の水準に照らして、すべきことをしなかった(過失)場合で、かつ、その過失と損害との間に因果関係がある場合です(民法415条・709条)。手技に問題がなくても、治療前の説明が足りなかった(説明義務違反)として責任を問われることもあります。
- 時効:生命・身体の侵害による損害賠償の請求は、損害と加害者を知った時から5年、または治療の時などから20年で時効になります(民法166条・167条・724条・724条の2)。患者さんが来なくなっても、すぐに請求の可能性がなくなるわけではありません。
- 診療録:診療録は5年間の保存が義務づけられています(歯科医師法23条)。紛争になれば、診療録が最も重要な証拠になります。
- 保険:歯科医師賠償責任保険の多くは、保険会社(または歯科医師会)の同意なく賠償を約束すると、その部分の保険金が支払われないことがあると定めています。ご自身の保険の約款を確認してください。
医院での対応
- 患者さんへの対応:痛みや腫れなど、いま必要な処置を優先します。必要であれば、他の医療機関(口腔外科など)を紹介します。
- 聞き取りと記録:患者さんの訴え、医院の説明、やりとりの日時と同席者を、その日のうちに記録します。
- 記録の保全:診療録、レントゲン・CT、口腔内写真、技工指示書、同意書などを、そのままの状態で保管します。あとから書き直すことは絶対に避けてください。経過を書き残したい場合は、カルテには手を加えず、作成日を入れた別の書面に残します(カルテに書き忘れた説明を、あとから書き足してもよいですか?を参照)。
- 保険・歯科医師会への連絡:加入している保険の窓口(歯科医師会を通じて加入している保険であれば歯科医師会)に、早めに事故の報告をします。
- 窓口を一つにする:患者さんとの連絡は、院長など一人の担当者に決めます。スタッフが個別に答えると、説明が食い違う原因になります。
- 事実の検討:記録をもとに、当時の診療が適切だったかを検討します。検討の結果を説明する場面では、弁護士に同席を頼むこともできます。
話し合いの場での注意
- 複数で対応する:一人で対応せず、医院側は2人以上で臨みます。
- 録音されている前提で話す:相手の了承なく録音されたものも、裁判で証拠になりえます。医院側も記録を残します。
- 金銭の要求には即答しない:賠償や返金を求められても、その場では答えず、検討して後日回答すると伝えます。
- こじれたら書面に切り替える:口頭のやりとりで話が進まない場合は、書面でのやりとりにし、送る前に弁護士の確認を受けます。
- 訴状が届いたら放置しない:答弁書を出さずに期日を欠席すると、相手の言い分どおりの判決が出るおそれがあります。
謝罪と責任を分ける
- 「ご不快な思いをさせて申し訳ありません」「痛みが続いていることは心苦しく思います」と、患者さんの状態に対してお詫びすることは、責任を認めることとは別です。
- 一方で、「こちらのミスです」「治療費は全額お返しします」と言ったり、念書に署名したりすると、のちに責任を認めた証拠として扱われるおそれがあります。
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執筆:小畑 真(弁護士・歯科医師、弁護士法人 小畑法律事務所 代表)
※ このページは一般的な考え方の説明です。実際の対応は、個別の事情によって異なります。








