

暴言や無理な要求を繰り返す患者の診療を、歯科医院は断れますか?
結論
診療内容と関係のないクレームの繰り返し、暴言、不当な要求などの迷惑行為によって、診療の前提となる信頼関係が失われた場合は、新たな診療を断ることが正当化されます。単に「相性が悪い」「関係がぎくしゃくしている」というだけでは足りません。また、急を要する症状がある場合は、その対応が優先です。 断るときは、迷惑行為の経過を記録し、書面で伝え、必要に応じて他の医療機関を案内してください。暴力や脅迫があれば、ためらわずに警察に通報します。
根拠
- 応招義務:歯科医師は、正当な理由がなければ診療の求めを拒めません(歯科医師法19条)。この義務は国に対する義務で、違反しても罰則はありませんが、正当な理由のない拒否を繰り返すと、行政処分の対象になりうるとされています。
- 厚生労働省の通知(令和元年12月25日):診療・療養などで生じた、または生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合には、新たな診療を行わないことが正当化されるとしています。例として、診療内容と関係のないクレームを繰り返し続けることなどが挙げられています。また、特別な理由なく保険の自己負担分の未払いが重なっている場合は、悪意のある未払いと推定されることもあるとしています(未払いだけを理由に直ちに断れるわけではありません)。一方で、緊急の対応が必要な場合は、診療しないことが正当化される場面は限られます。
- カスタマーハラスメント対策の義務:改正された労働施策総合推進法により、2026年10月1日から、事業主には、顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)からスタッフを守るための措置(方針の明確化、相談体制の整備、発生時の対応など)を講じる義務があります。スタッフが1人でもいれば、歯科医院も対象です。義務を怠っても直ちに罰則はありませんが、行政の勧告に従わない場合は、公表の対象になります。
- 安全配慮義務:医院は、スタッフが安全に働けるよう配慮する義務を負っています(労働契約法5条)。「高額な自費の患者さんだから」とスタッフに我慢させると、医院が責任を問われるおそれがあります。
- 刑事上の責任:暴行・脅迫、大声などで診療を妨げる行為(威力業務妨害)、退去を求めても出ていかない行為は、暴行罪・脅迫罪・威力業務妨害罪・不退去罪などの犯罪にあたることがあります。
医院での対応
- その場の対応:一人で対応せず、院長などの責任者が前に出ます。身の危険を感じたら警察に通報します。
- 記録:日時、言動の内容、対応した人を、その日のうちに書きます。可能であれば、防犯カメラの映像や録音も残します。
- 書面での警告:迷惑行為が続く場合は、やめるよう書面で求め、続けば診療をお断りすることがあると伝えます。
- 診療を終える判断:信頼関係が失われたと判断した場合は、経過の記録をもとに、診療を終えることを書面で伝えます。治療の途中であれば、現在の状態と必要な治療を伝え、他の医療機関を案内します。
- スタッフを守る:対応したスタッフの話を聞き、必要なら担当を外します。
正当なご意見との区別
- 患者さんのご意見がすべて迷惑行為になるわけではありません。言い分の内容(要求に根拠があるか)と、伝え方(暴言・威圧・長時間の拘束などがないか)の2つの面から判断します。言い分に理由があっても、伝え方が度を越えていれば、迷惑行為にあたりえます。
予防のために
- カスタマーハラスメントへの医院の方針を決め、院内やホームページに掲示する。
- 対応の手順(誰に報告し、誰が対応し、いつ警察を呼ぶか)を決め、スタッフで共有する。
- 相談したスタッフのプライバシーを守り、相談したことで不利益に扱わないことを、あわせて決めておく。
- 防犯カメラは音声も録れるものにし、電話は録音していることを前もって知らせる。
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執筆:小畑 真(弁護士・歯科医師、弁護士法人 小畑法律事務所 代表)
※ このページは一般的な考え方の説明です。実際の対応は、個別の事情によって異なります。








