

歯科医院で、治療前の説明と同意書はどこまで必要ですか?
結論
治療の前には、病状、治療の内容、リスク、ほかに選べる方法(治療をしない場合を含む)、費用を説明し、患者さんが理解して選べるようにする必要があります。同意書は法律で義務づけられた書類ではありませんが、この説明をしたことを示す大切な証拠です。 重要なのは署名欄よりも、何を説明したかが分かる中身と、その記録です。
根拠
- 説明義務:医療法は、医療の担い手が適切な説明を行い、患者の理解を得るよう努めるべきことを定めています(医療法1条の4第2項)。裁判例は、診療契約にもとづく義務として、治療の内容や危険などを説明する義務を認めています。
- 説明すべき内容:最高裁は、手術の説明について、病名と病状、予定している治療の内容、治療に伴う危険性、ほかに選べる治療方法があればその内容と利害得失、予後などを説明すべきとしています(最高裁平成13年11月27日判決)。
- 自己決定権:患者さんが治療を受けるかどうかを決める権利は、人格権の一内容として尊重されます(最高裁平成12年2月29日判決)。
- 記録:歯科医師は、診療をしたときは遅滞なく診療録に記載しなければならず(歯科医師法23条1項)、診療録は5年間保存しなければなりません(同条2項)。
同意書に入れる主な項目
- 診断名・現在の状態
- 予定している治療の内容と流れ(期間・回数)
- 期待できる効果と、その限界
- 起こりうるリスク・副作用・合併症
- ほかに選べる治療方法と、治療をしない場合に起こりうること
- 費用(自費の場合は総額の目安、追加費用が生じる場合、途中でやめた場合の精算)
- 治療後の注意点(通院・メインテナンスなど)
- 質問の機会があったこと、説明を受けて理解したことの確認と署名
患者さんが検査や治療を断ったとき
- 「患者さんが断ったのだから仕方ない」では済みません。断った場合に起こりうること(見落とし、悪化、抜歯が必要になる可能性など)を具体的に説明し、必要性を理解していただけるよう、改めて丁寧に説明することが求められます。
- 説明した内容と患者さんの返答は、会話のやりとりが分かるように診療録に残します。重要な検査や治療を断られた場合は、確認書に署名をいただきます。署名を断られても、書面をお渡しし、その事実を診療録に残しておけば、説明をした証拠になります。
- 逆に、患者さんの希望どおりの治療をしなければならないわけでもありません。医学的に問題のある治療を求められた場合は、理由を説明してお断りすることができます。
同意書が不十分だと、かえって不利になる
- 同意書に書いていないリスクは、「説明していない」と判断されやすくなります。リスクは、頻度の高いものと、頻度は低くても重いものを具体的に書きます。
- 同意書があっても、手技に誤りがあった場合の責任がなくなるわけではありません。
誰が説明するか
- 治療の選択や提案は、歯科医師が行う医行為です。歯科医師でないスタッフ(カウンセラーなど)ができるのは、一般的な説明や、歯科医師が判断した内容を伝えることまでです。費用の説明という形でも、中身が医学的な判断であれば、歯科医師法に反するおそれがあります(厚生労働省も、令和7年8月15日の通知で、医師・歯科医師でない者による説明の限界を示しています)。
未成年・若い患者さん
- 未成年の患者さんは、親権者の同意に加え、本人にも年齢に応じて説明し、同意を得ることが望ましいとされます。父母がともに親権者の場合、大きな治療や高額な自費診療では、2人の同意を書面で得ておくと安全です。
- 18歳・19歳の患者さんは成年なので、本人だけで契約できます。一方で、社会経験が乏しいことにつけ込み、不安をあおるなどして結ばせた契約は取り消されることがあるため(消費者契約法4条3項)、高額な自費診療では、その場で契約を急がせないことが大切です。
作るときの注意点
- 治療ごとに作る:インプラント、矯正、抜歯、審美治療など、治療ごとにリスクや費用の構造が違うため、共通の書式だけでは足りません。
- その患者さんの事情を書ける欄を設ける:全身疾患・服薬など、その患者さんに特有のリスクを説明したことを残せるようにします。
- 「一切責任を負わない」などの免責の文言は避ける:消費者契約法により無効とされるおそれがあり、かえって信頼を損ないます。
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執筆:小畑 真(弁護士・歯科医師、弁護士法人 小畑法律事務所 代表)
※ このページは一般的な考え方の説明です。実際の対応は、個別の事情によって異なります。








