

スタッフの労務
結論:歯科医院の労務トラブルの多くは、雇用契約書・就業規則・勤怠の記録が実態と合っていないことから起こります。問題が起きてからではなく、書面と記録を先に整えることが、いちばんの予防になります。 解雇や残業代の請求は、対応を誤ると、医院の負担が大きくなりやすい分野です。
よくあるご相談
- 退職したスタッフから、未払いの残業代を請求された
- 勤務態度に問題のあるスタッフを辞めさせたい
- 勤務医が退職し、近くで開業して患者さんを連れて行った
- スタッフ同士、または院長とスタッフの間でハラスメントの訴えがあった
- 雇用契約書・就業規則を見直したい
- 労働基準監督署の調査が入る
法的な考え方
1.労働時間と残業代
診療前の準備、診療後の片付けや練習、昼休みの電話番なども、医院の指示のもとで行っていれば、労働時間にあたる可能性があります。法定の労働時間を超えて働かせるには、労使協定(36協定)を結んで届け出る必要があり、超えた分には割増賃金を払う必要があります(労働基準法)。
残業代を固定額で払う方法(固定残業代)は、通常の賃金と区別できることなどの要件を満たさないと、残業代を払ったことにならない場合があります。賃金の請求権の時効は、当分の間3年です。
2.解雇
解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められなければ無効になります(労働契約法16条)。注意や指導の記録がないまま解雇すると、無効とされるおそれが高くなります。まずは、注意・指導の経過を書面で残すこと、退職について話し合う(退職勧奨)ことが考えられます。
3.就業規則
常時10人以上の従業員がいる医院は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る義務があります(労働基準法89条)。10人未満でも、服務のルールや懲戒の定めを置くために、就業規則を作っておくことが望ましいです。
4.ハラスメント
職場のパワーハラスメントについて、事業主には、相談窓口の設置などの防止措置を講じる義務があります(労働施策総合推進法。中小事業主も2022年4月から義務)。セクシュアルハラスメントについても同様です。2026年10月1日からは、患者さんなどからの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)からスタッフを守る措置も、事業主の義務になりました。
5.勤務医の退職と競業
退職した勤務医の開業を、一律に禁止することは難しいとされています。競業を制限する合意は、期間・地域・代償などの点で合理的な範囲でなければ、無効とされる可能性があります。
当事務所でできること
- 雇用契約書・就業規則・各種規程の作成と見直し
- 残業代の請求を受けたときの、計算の検証と交渉
- 問題のあるスタッフへの注意・指導の進め方、退職の話し合いの助言
- 解雇・雇止めをめぐる交渉、労働審判・訴訟の対応
- ハラスメントの訴えがあったときの調査と対応、相談窓口の整備
- 労働基準監督署の調査への対応
小畑真は、『歯科医療専門弁護士 小畑真の歯科事件簿2《スタッフ・契約編》』(デンタルダイヤモンド社)でスタッフをめぐるトラブルを取り上げているほか、歯科医院の労務管理やハラスメント対策について講演しています。
よくある質問
Q.歯科衛生士をパートで雇っています。有給休暇は必要ですか?
A.パートタイムのスタッフにも、勤務日数に応じて年次有給休暇が与えられます。年10日以上の有給休暇がある人には、年5日を取得させる義務があります。
Q.試用期間中なら、自由に辞めてもらえますか?
A.試用期間中でも、解雇には合理的な理由が必要です。通常の解雇より広く認められる傾向はありますが、記録を残し、手順を踏むことが大切です。
執筆:小畑 真(弁護士・歯科医師、弁護士法人 小畑法律事務所 代表)
※ このページは一般的な考え方の説明です。実際の対応は、個別の事情によって異なります。








